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空き缶を蹴りながら学ぶ苦労

2014年05月09日

最近、久しぶりに受験勉強をし始めました。


相変わらず、追い込まれてするタイプなので、何とかしたいという気持ちがどこかにあって、たまに本屋で見る勉強法とやらに引き寄せられてしまうのは、楽をしたいという証拠なのでしょうか…


そのなかで、東大在学中に司法試験に受かり、首席で卒業された方の勉強法に、一つの本を7回読むということが書かれていました。


確かに、今までプロ中のプロと言われる方々は、自分の仕事を繰り返し繰り返し当たり前のようにできるまでされています。


私がカテーテル治療をしていた時も、上司から、「俺と同じことができるようになるまで自分のやり方でするな」と言われたことがあります。


自分のやり方でやれば楽ですよね。


それでは、気付きもなく、成長もないということです。


無理だと思われるどんなことでも、やり続けるとできるようになる。




このような考え方は、あの歯に衣着せぬ毒舌の俳優 津川雅彦さんも長い役者人生の経験から学ばれているようです。




一番苦労した監督は、伊丹十三さんです。

あの人は自殺するまでに全部で10本映画を撮って、僕は一本を除いたすべての作品に出ています。

気に入ってくれたのは、たぶん僕が非常に素直に彼の言うことを聞いて努力したからでしょう。

僕も監督をやったから分かりますが、監督からみれば「うい」役者だったんだと思いますね。

何が勉強になったかというと、めちゃ注文が細かくて多かったことです。

台詞を言う時に息継ぎをするんですが、「そこでブレスしないでください」と、注文をつけてくる。

元役者だったから攻め方をよく知ってるんですね。

台詞を覚える時には、息を継ぐ場所も含めて覚えます。

突然息継ぎの場所を変えると、次の台詞が出てこない副作用が起こるんです。

彼は役者に息継ぎをさせないで、一気に台詞を言わせてテンポアップしたかったんでしょう。

『スーパーの女』という作品で、主役の宮本信子と僕がしゃべりながら歩く長いシーンなんですが、「そこにある空き缶を歩きながら蹴ってください」と言うので蹴ると、「右足でなく左足で蹴ってください」と言う。

必ず左足で缶を蹴るためには、歩く歩数にまで神経を使わざるを得ないから、台詞への神経がどうしても疎かになる。


するとすかさず、「台詞が、微妙に淀みました」とか「ちょっと歩き方が不自然でしたね」と。

それだけではない。


「この空き缶をここへ蹴ってください」と場所まで指定するんです。

僕も切れちゃって「サッカーの選手じゃあるまいし、空き缶を決められた方向に蹴るなんてことはできません」と文句を言ったら、「でもその空き缶を左手で拾い上げて、机の上のこのキャメラの左手前に置いてもらわないと画面がしまらないんですよね」と(笑)。

空き缶が思いどおりの方向に飛ばなければNG。


いいところに飛んだと喜んだ途端、今度は僕が台詞を詰まらせてしまう。

これはもう、どんな注文にもめげず台詞を滑らかに言えるように完璧に覚え込むしかありません。

というより、もう臓腑に叩き込むという感覚ですね。

台詞を繰り返し何百回も言って覚えるには違いないんですが、回数をやればいいというものではなくて、日数をかけなきゃダメなんです。


 寝ては忘れ、起きてはまた覚えなおす。

徐々に忘れる量が少なくなり、一晩や二晩寝てもワンフレーズも忘れなくなったら、今度は早口言葉で一気にロレらずしゃべれるようにする。

次に車を運転しながらしゃべってみる。

気は運転のほうに集中しないと危ないですから、そんな状態でも台詞がちゃんと出てくるかを確かめました。

どんな障害にも気を散らすことなく言えるようになるまでに14日間かかりましたね。

いまだに2週間前というのが自分の中で定着していて、そこから始めれば台詞を忘れるという心配は一切なしに、現場では相手役のセリフのニュアンス、間合い、テンポ、語気といったことにも神経を集中でき、それに自由に合わせられるようになった。

これ、伊丹さんのおかげです。

台詞は芝居の基本ですし、覚える作業が一番の苦行です。

やっぱり職業というのは我慢とか忍耐とか苦労とか、そういうものを乗り越えない限り、プロの業とはいえないというのは、本当だなと思います。



                                                               『致知』2014年6月号  「生命のメッセージ」より





なんとか楽をしたいと思うのが人の常ですが、やはり何かを学ぶ時には、我慢とか忍耐とか苦労がないと学べないということ。



今年も看護学校で授業していますが、家庭もあり、働きながら学校に来ている生徒もいます。


そんな環境での勉強なので、授業態度も違います。



本気で学ぶ姿勢を感じると、私はまだまだ苦しみが足らないような気がします。



日々患者さんの我慢、忍耐、苦労を感じさせてもらえるということは、ありがたい大きな学びだということ。




今日もちょっと身が引き締まったところで、娘達が宿題をする隣で、私も受験勉強をさせていただく予定です。



                                        院長 野村











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