当院の患者さんの中には、ボランティアを積極的にされておられる女性の方がおられます。

本当に誰かのためになってあげたいというお気持ちを常に持っておられる方なのですが、ご自分では、“おせっかいおばさん”だからと言われていました。

その方は、「この前も、家の近くの脇道で溝にはまった車があって、自分ではどうしようもないのに、頑張っていたから、知り合いに声をかけて、みんなで車を引き上げてあげたんですよ。その人の御礼がしたいと名前を聞いてきたけど、近くに住んでいる“おせっかいおばさん”だから気にしないでって言っておいたんです。私ってほっとけないんですよね。」って。

私としては、おせっかいどころか、ほんと人助けだと思いました。

そんなことが、あっさりできるその行動力。

見返りを求めないやさしさ。

北海道新聞の切り抜きに、ある中年男性の投書がありました。

終電車の発車間際に切符なしで飛び乗り、車掌さんが回ってきた時に、切符を買おうと財布を出そうとしたが、財布がなかった。

小銭入れもない。

どこかで落としたのだろうか。

途方にくれたけれども、そのことを正直に車掌さんに言いました。

「すみません。明日、必ず営業所まで行きますから、今日は乗せてください」

ところが、この車掌さん、よほど虫の居所が悪かったのかどうか、許してくれない。

次の駅で降りろ、と言うのです。

次の駅で降りても家に帰る手段はない。

ホームで寝るにしては、北海道の夜は寒すぎる。

どうしようもなくて困っていたら、横に座っていた同じ年格好の中年の男性が回数券をくれたんです。

お礼をしたいからと言って、その男性に名前や住所をたずねたけど、ニコニコ手を振って教えてくれない。

最後は借りたことを忘れて、なぜ教えてくれないのかと文句を言ったら、次のような話をしてくれたんです。

実は私もあなたと同じ目にあって、そばにいた女子高校生にお金を出してもらったんです。

その子の名前を何とか聞きだそうとしたけど教えてくれない。

『おじさん、それは私のお小遣いだから返してくれなくて結構です。それより、今おじさんがお礼だといって私に返したら、私とおじさんだけの親切のやり取りになってしまいます。もし、私に返す気持があったら、同じように困った人を見かけたらその人を助けてあげてください。そしたら、私の一つの親切がずっと輪になって北海道中に広がります。そうするのが、私は一番うれしいんです。そうするようにって私、父や母にいつも言われてるんです』

と私に話してくれました。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　『心ゆたかに生きる』林覚乗・西日本新聞社より抜粋転載

この考えができる女子高生もすごいのですが、この子を育てた両親には驚きです。

受けた恩を、受けた人に返すのは、「恩返し」

受けた恩を、受けた人にではなく、別の人に返すことを、「恩送り」というらしいのですが、恩送りは、見返りを求めずに、見知らぬ人に受けた恩を送るということ。

お返しより、突然の贈り物のほうがうれしいですよね。


そんな “贈り物” があふれていると、世の中、もっと幸せになりそうです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　院長　野村