「あなたの仕事場で見せる笑顔は、家では見たことがない笑顔ね」
先日、妻からそう言われて、すこし考えさせられました。
妻は嫌味で言ったわけではないようでしたが、疲れた顔ばかり見せているのだろうと、申し訳なく思います。
常々スタッフには、「一番そばにいる人を幸せにできなくて、どうしてそれ以外の人達を幸せにすることができるのか」と言っている割には、説得力のない院長です。
笑顔の大切さ。
永六輔さんも、映画評論家の淀川長治さんが、晩年、背筋をちょっと痛めて入院され、お見舞いに行った時に笑顔の重要性を感じたそうです。
淀川さんの病室のドアに便箋が一枚張り付けてあって、淀川さんの字で、
「このドアを開ける人は、笑って開けてください」
と書いてあります。
ぼくはいかにも淀川さんらしいなと思いながら、にっこり笑って「こんにちは」と部屋に入りました。
そうしたら、ぼくの顔を見た淀川さん、
「あんたはいいの」
「え?だって、笑えって表に書いてあるじゃない」
淀川さんがいうには、あの張り紙は看護師さんに向けて書いたんだ、と。
看護師さんはとにかく忙しい。
仕事もきつい。
だから顔つきがとんがったり、角ばったりしがちになる。
なかなか笑顔というわけにはいかない。
だけど看護師の表情が硬いと、患者はそれでなくとも気持ちが沈みがちなのに、何か悪いことがあったんじゃないかと、余計な心配をしがちになる。
看護婦さんがパッと笑顔で入ってきてくれるだけで、どれだけホッとするか。
それで淀川さんは、部屋のドアに張り紙をした。
そうしたら最近になって、やっと笑顔で入ってくれるようになった、というわけです。
で、淀川さんの部屋を出たあと、ナースセンターに寄ってみたら、
「永さん、あそこに張り紙がしてあったでしょう?見ました?」
と師長さんに聞かれました。
「ええ、見ました。看護師さんが笑うようになったって、淀川さん、いってましたよ」
「そうなんです。淀川先生以外の病室に行っても、看護師たちが笑うようになったんですよ」
そういって師長さんは、嬉しそうに笑いました。
便箋一枚に書かれた張り紙が、看護師さん全部を笑顔にした。
看護師さんが笑顔になると、病室全体がなんとなく明るくなった。
『日本に生まれてよかった!』(永六輔&ケン・ジョセフ)徳間書店
明るく元気な声と、笑顔がある人とは、何にか話をしてみたくなりますよね。
今日、当院にひとつ新しい笑顔が増えたことに感謝します。
院長 野村