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飾る心が伝える本当の自分

2012年04月09日

最近、診察の帰り際に、患者さんからひとこと言われることが続きました。

 

私としては、患者さんのことを思ってのことだったので、当然と言えば当然のことだったのですが、言葉にして改めて伝えられると、「やっぱり大切にしてきてよかったなあ」と嬉しく感じることでした。

 

皆さんも、相手を思って大切にしておられることがあるのではないかと思うのですが、今日は友人からいただいたメールに、そんな気持ちを大切にし、かたちにされておられる方のお話がありましたので、ご紹介したいと思います。

 

 

“生け花タクシー”

 

 

おそらくは都内でただ一台だと思うんですが、タクシーの車内に、生け花を乗せて走っている車があります。

 

これを運転しているのは、鈴木八洲伸(やすし)さん68歳。

 

鈴木さんが個人タクシーを開業したのは、昭和48年のことでした。

 

「自分の車に乗ってくださるお客さんに何かサービスをしたい」

 

思案した末にひらめいたのが「生け花」でした。

 

運転席と助手席の間の空間に、水盤と剣山を固定して花を生ければ、後ろの座席からお客様に楽しんでもらえるはず。

 

そして、水盤の水を一滴もこぼさず、花を乱さないで走れたとしたら、それは自分の運転の確かさと安全性の証明にもなるわけです。

 

間もなく鈴木さんは気づきます。

 

花には、人の心を開き、その口を開かせる力があるということです。

 

生け花を見て、話しかけてくるお客さんが増えました。

 

ネオン瞬く新宿・歌舞伎町から乗り込んで来たそのお客は、巻き舌で言いました。

 

 「烏山までやってくれや」

 

バックミラーをのぞくと、年の頃は三〇代の半ば。 あきらかに売り出し中のバリバリの暴力団組員といった感じでした。

 

その日、生けていたネコヤナギと菜の花に目をとめて、男は言いました。

 

 「ガキの頃、魚を取りに行った田舎の川に、よくこれが咲いてたなぁ。俺は、今じゃ世間の鼻つまみもんだけどよ、花は昔と同じだ。いいよなぁ・・・」

 

この言葉を聞いて、鈴木さんは思わず言ってしまいました。

 

 「これからは、そのお仕事で飯を食っていくのも大変な時代でしょう?」

 

男は、吐き捨てるように言いました。

 

 「大変でも何でも、この世界は簡単には抜けられねえんだよ」

 

鈴木さんは、なおも続けました。

 

 「抜けるも抜けないも、 それはあんたの気持ち一つじゃないですか?」

 

聞けば、東北の田舎の年老いたお母さんは、入院中とのこと。

 

 「お母さんの見舞いに、一度帰ってみたらどうです?」

 

 「田舎はさ、人の目がうるさいんだ。カタギじゃねえと、帰りずらいんだよ」

 

ちょっと淋しそうな男の言葉に、鈴木さんは言いました。

 

 「今ね、バックミラーにあなたの笑顔が浮かびましたよ。みやげなんか一つもいらない。病気のお母さんに、その笑顔だけを見せに帰っておあげなさいよ」

 

車が、烏山に着きました。料金を受け取り、お釣りを渡そうとすると、どうしたのか?男が下を向いたまま顔を上げようとしません。

 

見ればその目からは、大粒の涙がポロポロとこぼれていました。

 

 「これからもな、花をよろしく頼むよ・・・」

 

そう言い残して車を降り、闇へ消えてゆく男の後ろ姿は元どおり、両方の肩をゆすりながら、外股で歩く怖いお兄さんに戻っていました。

 

鈴木さんは、今も烏山を通るたびに思うそうです。

 

 (彼は、田舎へ帰ってくれたかなぁ・・・)

 

生け花タクシーが走る道には、いくつもの忘れられない顔があります。

 

お客様とドライバーの一期一会から物語が生まれる。

 

 「花が持ってる不思議な力のおかげです」と、 鈴木さんは語ります。

 

 

 

私の母も、亡くなった兄も、お花のお免状を持っていたので、学生時代に生け花を習いたいと言ったことがあるのですが、母からあっさりと却下されました。

 

もしあの時習っていたら、今頃、診察室にお花が生けてあったりしたかもしれません。

 

しかし、花は無くても、これからも何か良いものを、みなさんの心に生けたいと思っています。

 

 

                                      院長 野村

 

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