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伝えられない気持ちが咲く季節

2012年03月24日

先日、同僚だった方のお見舞いに行ってきました。

 

健診でたまたま見つかった病気でした。

 

放っておけば命に係わることにあり、今回手術を受けられたのですが、大きな手術であり、精神的にも体力的にもどうだろうと思いながらお会いしました。

 

しかし、まだ1週間も経っていないのに、普通の方のように元気に過ごしておられました。

 

しかも、今回のことも前向きにとらえておられ、職場のこと、家族のことを見つめ直すことをきちんとされていました。

 

奥様も仕事を休んで付き添っておられ、仲睦まじい姿に、この病気にも大きな意味があったのではないかと感じました。

 

 

 

今日はそんな気持ちになったので、いつもは語ることのできなかった夫婦のお話をご紹介したいと思います。

 

 

 

 

検査で喉頭がんと診断された年配の男性がいました。

 

しかし、彼は医師からの手術の説明にはまったく耳を傾けないで「最後まで手術をしないで戦う」と言って、手術の治療を拒みました。

 

新聞記者だった彼にとって、声を失う手術を受けると取材ができなくなるからでした。

 

しばらく、入院した彼はその後、手術をしないで自宅で療養することになりました。

 

しばらくして、彼が再び、入院することになりました。病状が悪化してしまったので、手術をする必要があったからです。

 

痩せて、水さえも飲むことができなくなって、苦しそうに呼吸をしていた彼の姿を見て、看護師さんは「こんな状態になるまで自宅で過ごしていたのか…」と彼の意思の強さに驚きました。

 

気管切開の手術を受けることになった彼は、看護師さんに「負けました。病に負けました」と一言だけ話をしました。

 

気管切開の手術を受けると声をだせなくなるので、これが彼の最後の言葉でした。

 

彼は若い頃から熱血新聞記者として仕事一筋で生きてきました。

 

全てを仕事にかけるような人生でした。

 

そのために、息子さんや家のことは全て奥さんに任せっきりだったようです。

 

以前に入院した時に看護師さんに「取材、取材でいつも飛んで歩いているから、女房には苦労をかけた。

 

定年になって仕事を退いたら、取材旅行ではなくて、夫婦水入らずで温泉旅行に行きたい。女房に楽をさせることがこれからの私の生きがい。これからは女房との時間を大切にしたい」と話していたそうです。

 

やがて、彼はガンの進行のために首から下の神経麻痺が起こり、手足が動かなくなりました。

 

彼の奥さんが時間のある限り、彼に付き添っていましたが、彼の顔からは笑顔が無くなって、無表情になり、一点をみつめたまま、誰の言葉にも反応しなくなりました。

 

奥さんに「主人が最近、全然、話を聞かなくなり、笑わなくなりました。何を話しても無反応で夫が何を考えているか分かりません。どうかなってしまったんですか?」と相談された看護師さんは「これからは女房との時間を大切にしたい」と彼が言っていたのを思い出して 彼のこの気持を声が出せない彼の代わりに 伝えてあげようと考えました。

 

そして、奥さんがお見舞いに来た時に、彼が奥さんと一緒に温泉に行きたがっていたことや、本当に奥さんに感謝しているという彼の想いを伝えてあげました。

 

ふと、黙って聞いていた奥さんが彼の方を見ると、彼の口が歪んで鼻水と涙で 顔中がぐちゃぐちゃになっていました。

 

奥さんは泣いている彼の涙をゆっくりと拭いてあげると「私は今が一番、幸せよ。 1日中どこにも行かないあなたのそばに ずっと一緒にいられることが今まであった? こんなに一緒にいられる時間持てて、私は今が一番、幸せ。迷惑とも苦労しているとも、ちっとも思わない」と泣きながら、震える声で彼に話しかけました。

 

その後の男性はこれまで見たこともないような穏やかで優しい顔つきになりました。

 

その1週間後、彼は奥さんに見守られながら静かに亡くなりました。

 

看護師さんは「私もこの夫婦のようになりたいと思って、この時に彼の奥さんが自宅の庭から摘んで来たバラをいただいて 私の家の庭に植えたんです。毎年、咲いてくれる花を眺めながら、伝えなければ伝わらない想いがあることを忘れないようにしています」と話してくれました。

 

                                   

                                      [悔いのない生き方に気づく24の物語] 中山和義 著 (フォレスト出版)

 

 

 

病気になってからでは伝えられないこともあります。

 

身近な人に、自分の感謝の気持ちを忘れずに伝えることが大切です。

 

 

しかし、ひとは自分で気付かない限り行動は起こせないものです。

 

そういう私もそうです。

 

だから、何かに気付くために、いつもあえて難しい選択をするのかもしれません。

 

 

何かを企てるたびに、妻からその真意を問われ、自分の甘さに反省する。

 

 

私は、しばらく何も伝えない方がいいようです。

 

                                     院長 野村

 

 

 

 

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